気に入らないところはあとで修正するやも……。
最近投下するネタがコラボばっかでごめんなさい!でも自分が楽しけりゃいいよねそれが個人創作サイトだ!(←
とりま寝る!明日はネズミーに行ってくるんだよ!(←早く寝なさい
* * *
馬車から下りたユフィは御者に労いの言葉を添えて、数日ぶりに帰還した居城に足を踏み入れた。
エントランスの大扉が閉まれば体面の気遣いが半減するので、窮屈な正装の留め具を外しマントを脱ぐ。
「お帰りなさいませユフィ様」
「あぁただいま。留守中変わったことはなかったか?」
部屋までの道、伝令係の兵長と女中長が並んで、歩きながら報告を聞くのもいつものこと。今日も新人の失敗談を交えた報告が聞けた。
何事もない、アステリアが平和な証拠である。
「あぁ、極楽鳥様がお見えになってます。今はティアス王子とご一緒です」
「はは、そうかわかった」
そうして自室に辿り着く、その直前で―――
ユフィは足を止めた。
空気が歪んだ。
それに気づいたと同時に―――背後で女中の悲鳴が上がる。
鼻をつく、血のにおい。
「ユフィ様、ユフィ様っ!クルイ様が―――!」
弾かれたように振り返って目に入ったのは―――
左半身を真っ赤に染めて、肩で荒い息をする、友人の姿。
―――動けなかった。
―――父上、父上ッ!!
先程まで元気だった父親が、血の海に横たわる。
幼い自分には何もできなくて。
その場を離れた。
人を呼ぼうと離れた。
―――その間に、父は―――
がくりと彼が膝をついた。
それにユフィは現実に引き戻される。
そして思い出した。
俺はもう、何もできないガキじゃない。
倒れ伏す前にその体を支える。抉られた痕も生々しい左の脇腹に手を添え、展開するのは回復呪。詠唱などしていられるか。
「くーさん、大丈夫か、危うい怪我はその腹だけか」
「…………フィ……?」
微かだが反応があった。けれどその声の弱弱しさは、不安を煽るには十分すぎる。
「あぁ俺だ、ユフィだよくーさん、俺の声は聞こえてるな? 意識はまだあるな?」
「……、…………」
何かを返答したいのだろうことは気配で伝わるのだが、声がのらない。
当直の宮廷医を呼びに行かせ、結果的にここから一番近い私室を運びこめるよう準備させる。
指示を飛ばしている間にも、抱える体から伝わってくる呼吸が、薄弱としていくのが感じられた。
「……おいくーさん、狂! 俺がいいって言うまで寝るな、俺の声をちゃんと聞いてろ! いいか狂! 狂ッ!」
ふ、と腕にかかる重みが増した。反応が、反応が、ない。
「っ……、くる、い、」
最悪の結末が脳裏をよぎる。
父親の最期がそれに重なる。
それにユフィは頭を振って、糸が切れたように寄りかかってくるだけの体を、力の限り抱きしめた。
「狂! 俺が救える場所にわざわざ来て、それで死んだら許さねぇぞ、狂―――!!」
城内で騒ぎがあれば耳に入るもので、鳥と、いつ合流していたのかサチコが様子を見に来た。
その頃にはもう狂は落ち着いていたが―――落ち着いたから大丈夫かというと、そうでもない。
否、大丈夫だ。大丈夫なのだが、目を開けてくれないと―――怖いのだ。
「……王様。心配しすぎじゃないの」
「この程度で死ぬような男じゃねぇだろ」
「―――……うん……わかってる」
わかっているのだが、怖くてたまらないのだから仕方ない。
父親の時は自分ではどうにもできなくてその場を離れた。親友の時はそもそもその場に居合わせることができなかった。
もう、自分の目の届かない場所で―――失うのは、嫌だ。
―――と。
ぱちり、と色違いの双眸が開いた。
「狂!!」
思わず叫んで、顔を覗き込む位置まで身を乗り出す。
「……おぉ、ユッフィ」
なんとも呑気な声に、ユフィの中で不安が怒りに変わった。
「おぉユッフィ、じゃねぇよこの馬鹿! まったく……心配、させやがって……!」
はぁ、と自然と漏れるのは安堵の溜息。
それには無頓着に、狂は現状を把握しようと瞬きを繰り返している。
「……どうなってやがる」
「怪我はだいたい治ってるよ。でも失血が多すぎだ、しばらく横になっとけ……っていってるそばから起きようとするな!」
「ぅお」
肘を支えに起き上がろうとした体は、頭を押さえ込むことでベッドに沈めた。まったくこいつはわかっていない。
「お前死にかけたんだぞわかってんのか!? 意識なくなったとき俺がどれだけ心配したと思ってる!」
「そりゃあ悪かったなユッフィ。そして狂じゃなくくーさんと呼べ」
それにまた怒鳴り返そうと口を開いたユフィは、けれどそれをやめて、頭を抱えて溜息をついた。怒鳴っていても仕方ないし、大丈夫ならそれでいい。
「あぁ、もう……。まぁそれだけ言えるようになってれば大丈夫か……」
そしてそのまま、狂には見えない方へ振り向いた。
その視線に、客人二人がベッドサイドへ寄ってくる。
「くーさん復活?」
「オマエにしたらなんとも無様な眺めだな」
二人に参入してもらったのは、他でもない―――不覚にも泣きそうになったのを、誤魔化すためだ。