ウィルトが好きだという声をもらって嬉しくなったので、ちょっとした絵付きSS。
そういえば、本編中ではあの状態なので、ラインはウィルトにあの喋り方ですが……、本来は敬語です。ウィルトの位置はユフィとかフィオナとかと同列なので。
本編で敬語のシーンが出てくる確率は非常に低いので、ここでお披露目してしまおう(←
晩餐も終わってしばらく経つ、月は中天の頃だろうか。
紙片を手にしたセンティレイド王が、エルグランド王の部屋の戸を叩く。
「ウィルト、いますか? 相談が……」
幼馴染みの間柄、返答を待たず中へ入ったラインは、刹那硬直した。
ベッドに腰掛けたウィルトの左手が、ない。
こちらを見てわずかに顔色を変え、義手の外された左手首を庇うようにしたウィルトから、ラインはとっさに視線を外した。
「馬鹿ライン。他人の部屋に入る礼儀も知らないのかい?」
「……、すみません」
包帯を巻き直していた所だったのだろう、傍に置かれた義手が嫌でも目に入って、だからラインは、いつもの悪態に素直に謝ることしかできなかった。
それを聞いたウィルトの機嫌が、更に傾く。
「あぁもう、面倒な奴だな。だから君には見せたくないんだよ……その反応に苛々する」
黙り込んだままのラインに、ウィルトは嫌味な程大きく溜息をついてみせた。
「いいかいライン。君がどう思っていようと勝手だが、俺にとってはもうどうでもいいことなんだけれどね。過去の一部に違いないし、現在の俺の一部、当然のことなんだから」
「―――でも。そうしてしまったのは、私の所為ですから」
「だから。君もわからず屋だね、俺はもう気にしてないって言ってるだろう。君が俺に負い目を感じる必要はないし、そういう態度は迷惑だって、何度言ったらわかるんだい?」
包帯で保護した左手に義手を取り付け、肘まで覆う手袋を嵌める。魔術で繰る義手を数回開閉させて、ウィルトは立ち上がった。
未だ目を合わせようとしないラインの胸倉を、わざと左手で掴みあげて、無理矢理視線を絡める。
「いい加減にしろ馬鹿ライン。殴るよ?」
「……、それは……嫌です」
腕を掴まれて抵抗されたことに、わずかながら苛立ちが収まったので、ウィルトはラインを突き放して踵を返した。ソファにどっかりと腰を下ろす。
「で? 相談事があって来たんじゃなかったのかい」
「あぁ……そうでした。明日の議題なのですが、これを……」
―――わかっているのだ。彼の負い目が消えることなどないことくらい。
けれど、ウィルトには。気にするなと。それしか言えないのだ。
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