センちゃんことセンリ様のブログにあったこのネタを、勝手に拝借致して候。
あんまりこういうの書くことがないから、楽しんで書けました。
……が。センちゃんが求めてるのと違ってたら……申し訳ない。でも完全に自己満足です。
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―――人間は合理的な生き物であるか否か。
壇上に掲げられた大きな文字、その前で一人の男が演説をする様を、見下ろす。
「……うあー……果てしなく面倒だと思えてきたんだが」
「暇を持て余してるんでしょう、付き合ってくれたっていいじゃないですか」
このホールの特別席なのだろう、他の席とは完全に別格の硝子張りの小部屋から、ユフィが人であふれかえる眼下の様子を眺めつつ、うんざりしたような声を出した。
応えるラインも、それほど乗り気な声音ではない。
「……じゃあ聞くけれど。暇を持て余していない俺は、帰ってもいいのかい?」
「今更帰るとか言わないで欲しいですね……それを言うなら私も帰りたいんですから」
政務も溜まってますしね、招かれていなければ来ませんよこんな所。と、宙に伸ばした手に、ふと紙束が現れる。ぎっしりと詰まっている文字。
「ここまで来て政務かい。仕事馬鹿にも程があるよ」
「誰かの所為で量が半端ないんですよ」
「つまんないことで魔術使うな。特にお前は」
「だから誰の所為だと思ってるんです」
国王が三人もこの様を見ているなど大部分の人間は知らずに、講演会は進む。
―――人間は合理的な生き物であると仮定しよう。己の利益のみを追求する利己的で完全に理性によって動き合理的であると。
平均値推測ゲーム、というものを例に挙げて考察していこうと思う。
ご存知だろうか。1~100の整数から数を1つ選択し、選んだ数が全体の平均値の3分の2に最も近い人が勝者となる、というものである。
さて、人間が合理的な生き物であるのならば、その主義の理想像そのままであるのならば。全ての人間は、なにを選ぶだろうか―――
壇上の男が、手近な観客を指して答えさせている。挙がるのは実に様々な数字。
「……ウィルトなら何を選ぶ?」
書類に目を通す作業に没頭しているラインごしに、ユフィが問いかける。ウィルトは数瞬の空白の後に、48、と答えた。
「直感で適当だけれど。ユフィさんは?」
「うーん……33くらい?」
「1、です」
ユフィとウィルトは揃ってラインを見た。書類に必要事項を書き付ける手を止めず、目すら上げず、ラインはもう一度、1ですよ、と繰り返した。
「……なにお前。政務やりながらちゃんと聞いてるのか」
「名指しで招かれてるんですから、聞いておかないと。あとで感想求められたら困るでしょう」
「それにしても、妬ましいくらいの同時処理能力だね。……で、どうして1なのか聞かせてくれるかい?」
「どうせすぐに説明がありますよ」
ペンを走らせながら、ラインは小さく欠伸をした。
―――では理論的に検証してみようか。
完全に自由に数字を選ぶと、平均は50となる。
たとえば今適当に……40、68、20、70を選んでみるとしよう。全て足して198。4で割ると49.5。およそ50である。
この50の3分の2は33.333333....
つまり33を選んだものが、全体の平均値の3分の2に近いことになる―――
「お。俺正解じゃねぇの」
「ユフィさんの直感は侮れないね」
―――しかし、人間が合理的であるならば、ここでも合理的に考え、皆33を選ぶと考えるだろう。
当然のことながら、33+33+33+33÷4=33だ。よって33の3分の2、つまり22が勝者。
しかしながらまたここでエンドレスが発生する。
皆、33と考えたあとは22を選ぶだろう、と。
そして22の後は―――と考えると同様に計算して、
22の3分の2は、14.6666≒15
15の3分の2は、10
10の3分の2は、6.6666≒7
7の3分の2は、4.666≒5
5の3分の2は、3.333
3の3分の2は、2
2の3分の2は、1.3≒1
つまり。答えは1である―――
ユフィとウィルトは揃ってラインを見た。彼は政務の手を休めない。
「……お前、まさかあの一瞬でここまで計算したのか?」
ラインはほんのわずかに視線をあげて、鼻で笑う。
「一瞬でもないでしょうに。結構時間ありましたよ」
「……問題はそこじゃあないよ、君」
ですが、とラインは再び視線を膨大な文字列へ戻した。
「人間、そううまくはできていませんよ」
―――ここまでは理論上の話だ。では、実際にやってみようか。
先程挙げてもらった数字は、なんだったかな。ここにメモしてあるのだけれど。
42、19、66、31、28……か。足して、186。平均は……37.2だ。
37として、3分の2は……24.6≒25だ―――
「……おいおい。随分とまぁ……」
理論と違うじゃないか。ユフィは苦笑した。
まったくだね、とウィルトが同意する。
―――ちなみに、実際に何度か、メンバーを変えてやってみたところ、選ばれる数字の平均値は25から40。その3分の2を選んだ人が勝者となるパターンが多い。
ここから導く私の考えを、端的に言おう。
これは、人間なんて合理的にできていない、という証明である。
大体ある程度合理的であったとしても、莫大な情報を処理する頭など持ち合わせてなどいない。
つまり最後は「直感」なのだ―――
「直感、ですか」
くす、とラインが笑った。広げてあった書類をまとめながら、壇上の男を眺める。
「なんとも人間臭い理論ですね。的を射ていて面白い。面白かったと素直に伝えておきましょう」
「……まぁ、俺も最後の考察には賛成なのだけれどね。実際俺も直感で選んだ訳だし」
ただ。言いながら、ウィルトは腕を組んでラインを見た。
「ここに《合理的に莫大な情報を処理する頭を持ち合わせた人間》がいることに、驚きと疑問を感じるよ」
「そりゃあ大賛成だ」
ウィルトとユフィの顔を交互に見ながら、ラインは椅子の背もたれに体重を預けた。
「褒めても何も出ませんよ」
「褒めてる訳じゃないのだけれどね」
「……まぁ、でも、」
処理の終わった書類を消して、ラインは欠伸を噛み殺した。
「いいじゃないですか、直感。こんなゲームは何の足しにもなりませんが、人生における重要な選択は直感が物を言うんです」
「……お前が言うとなんだか年寄り臭いな」
顔をしかめたユフィを、心外だ、と言わんばかりにラインが睨む。
「あなたに言われたくはないですよ。……第一、理詰め過ぎると息が詰まりますからね」
頬杖をついて壇上を見下ろしながら、ラインはひとつ溜息をついた。
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途中、演説内容はセンリ様の元ネタより抜粋・改変。
いやぁ……本当にいいのかこんなんで。