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きょー宅歪さんとうちのラインが最近仲良くなったので。


――――――

 歪がこの異世界の王城を訪ねるときは、決まって気配を消すことが習慣になっていた。
 訪ねる相手が多忙極まりないため、邪魔をしないよう、という配慮によるものである。
 彼は気配に敏感で、しかも他人に気を遣いすぎる人間だから、歪の来訪を感知したら仕事を放っても応対の時間を作ってしまう。
 音を殺して、通い慣れた執務室の扉を開ければ、案の定彼は書類の束が文字通り山積する机に向かって、書きものをしていた。
 ―――ように見えた。
 歪は微かに眉を寄せる。
 ペンを握る手が動いていない。顔の角度が、青の瞳が文字を辿っているにしては、下方すぎた。
 これはもしや。
「ライン?」
 それでも遠慮がちに歪は名を呼んだ。静かな室内に思った以上に響いた声に、けれどラインは全く反応しない。
 ああやはり、完全に眠っている。
 薄く苦笑を浮かべた歪は執務机に近づいて、それが均衡を破ったように、ラインの上体がぐらりと傾いだ。
「……っ」
 反射的にインク瓶と朱肉を救出した直後、ラインが机に突っ伏した。書類の山がひとつ崩れたが、色がつくものがなかったから大惨事には至っていない。
 歪はとりあえず安全だと思われる場所に手に持っていたものを置いて、ラインの手からペンを取り上げると、銀糸をなでるように頭に手を置いた。
「暫く眠れ、ライン」
 そっと椅子の方に回って抱き上げ、部屋の隅に置かれたソファへ運ぶ。仮眠用も兼ねているというだけあって、広めに作られたソファだ。
 顔色を見て、体調は良好そうであることを確認すると、歪は執務机を振り返った。
「……、さて」



 ぼんやりと霞む視界に最初に入ってきたのが天井で、思考能力が目覚めきらないラインは、しばしゆっくりとしたまばたきを繰り返しながらそれを眺めていた。
 ああここは執務室か、とようやく認識する。ソファまで移動してきた覚えがなくて、いつの間に寝たのかと記憶を辿る。
 いつもの癖で、左手をもちあげて髪をかき上げながら身を起こした。中途半端に寝た所為か頭が痛い。
「起きたか、ライン。お早う」
 声にぎょっとして、ラインは顔をあげた。自分がいたはずの執務机に座っているのは、異世界の友人で。
「ひー、さん……え、いつのまに、何やって、今どういう状況です!?」
「寝起き早々混乱中のようだな。君にしては珍しい」
 歪はくすりと笑うと、ペンを置いて書類の束を整えた。
「俺が来たら君がここに座ったまま寝ていたから、そちらへ運んだ。暇だから書類の分類整頓をして、俺にも処理できそうなものはやっておいた」
「…………そう、ですか」
 ラインは苦い思いで溜息をつき、ソファから立ち上がる。ぐ、と一度伸びをすると、脳も体も完全に覚醒した。
「それはすみませんでした、ひーさん」
「謝罪なのか」
 歪は椅子を明け渡しながら言う。手には厚い束が載せられていて、おそらく自分が代行できるものはまだやるつもりだろうことを示している。
 ラインは言葉の意図を受け取って、苦笑する。
「いえ……助かります。ありがとう」
 一段落したらお茶にしつつ休憩しましょう、と提案すると、それがいいと微笑が返ってきた。

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