アストルくんのネタは地味に温めてるんですが、まぁちゃんと出すのは追い追いということで……。
時間軸は本編終了数年後くらいなんですが、まぁその辺はどうでもいいや。
玉座を継承した時に、会った時には注意せよと伝えられる名前が二つある。
一つは、センティレイド王ライン。
言わずと知れた大国センティレイドの、中でも“至高”と称される王。その慧眼は未来を見通し、その言に過ちはなし。
会議の場で対立することはなかろう、当人は至って穏和で、失言に機嫌を損ねる難しい男でもない。
だが、センティレイドが近年戦争を起こしていないのは、彼の力によるものである。
害をなす存在だと一度認められてしまえば―――彼自身の手によって闇に葬られるとの話。
そしてもう一つ、アステリア王ユフィアシード。
数十年前までから一変してアステリアの治安が安定しているのは、ほぼ彼の力によるものだと言って過言ではない。国内における彼のカリスマ性は特筆すべきであり、彼自身の国と民にかける愛情も執着といえる程に強い。
故に、敵対する他国には容赦がない。
気性も荒く気分屋であるので、言動には気を払え。火炎属の魔術師であるが故、その残虐さは否めない。
同席する場合は注意せよ。
ラインは賢王が故に。ユフィは暴君が故に。
「暴君? 俺が?」
アストルがおそるおそるその話を切り出せば、ユフィアシードは豪快に笑い飛ばした。
「あっははは、なんだそれ、やっぱり俺の評価ってそんな感じなのか」
「そんな感じなのか、で済むんですかユフィさん……」
「まぁなぁ、特にお前の親父とは仲悪かったしなぁ」
「あー……その話は聞いてます」
ラインとの親交を経由してユフィとの親交も深めているアストルにとって、父王がユフィのことを毛嫌いしていた理由がよくわからない。確かに父王の言うことに間違いはないが、そこまで警戒するべき気難しい人でもないと思う。
「賢王が故にっていうのも、なぁ……。忠告される程のことなのか」
第一“至高”という前提が……と渋い顔をするラインに、まぁ否定しなくていいと思うぞとユフィが言う。
即位早々世界会議に出る羽目になってしまい戸惑っていたアストルに、最初に声を掛けてくれたのがラインだった。もろもろあって仲良くなり、その繋がりでユフィともよく話す。
父王から二人の話を聞いた時はどんな人かと思ったが、付き合ってみるとなかなかにいい人達だ。
だが、前述したとおり父王の言葉にも嘘はなく、―――ラインが本当に暗躍しているのかということは、アストルもまだ知らない。だが、それが真実だと言われて、納得はできる。
「や、でも……二人のそういう話、結構聞きますよ」
それはもう噂から悪口からいろいろと。
「暴君ユフィアシード……暴君ユフィアシード」
「ライン、何故二度言った」
「おもしろいから」
「でもユフィさん意外と人見知りですよねぇ。会議の席と別人じゃないですか」
素直な感想を言えば、いけすかない奴が多いからだよ、とあくびを交えた返事。
「アストルもあれだ、なんかあったら言えよ。俺が灸をすえてやるから」
「そういうこと言うから暴君だって言われるんじゃないんですか」
「だとしたら別に構わない、これはもう性格だ!」
「はははこの人開き直った」
「ラインさんも結構悪ノリしますよね……」
「アストル、ユフィさんは適度にあしらわないと身がもたないよ」
「なんだとこの野郎」
二人のやりとりに思わず笑ってから、アストルは考える。
この二人と親交が深いということは、もしかするととても―――幸運なことなのではないか。