はい、ちゃんと解説きけって話ですね。
扉を開けて、ラインは絶句した。
客間、と称されてはいるが、もうアステリア国主の私室と化している一室である。
昨夜もいつものごとく宿泊したユフィを、朝食だとわざわざ起こしに来たのだ。
これでベッドの上から姿が消えていれば、それはそれで嬉しい反面礼儀知らずだと罵りたくもなるのだが、朝日の満ちる明るい部屋の中、広がる光景は。
―――一匹、増えていた。
「……、焔、帝……?」
未だ爆睡中のユフィの腕の中、抱かれるようにして使い魔がいる。小さな馬に似た姿は、炎に包まれてはいるがそれは静かなもので。
これでも燃え移らないとは不思議だ。主と同じく夢の中にいる姿など、初めて見た。というか、こいつも寝るのか、こんなふうに。
近寄って、観察してみることにする。
……本当に、こんなふうに寝るのか、と感心する。普通馬は足を折ってうつぶせに休む、と思うのだが……、こいつは仰向けだ。呼吸に合わせて腹が上下する。
んー、とユフィが唸って、焔帝を抱きしめた。使い魔は幸せそうに息をつく。
《……しゅ、じょう……》
主上苦しい、とさして苦しくもなさそうに呟く。普段の態度とは正反対で―――初めてこいつを可愛いと思った。
「―――……。……仲が、いいんだな……」
少しばかり羨ましくなった。
と、ぼんやりとユフィが目を開けた。当初の目的を思い出して、ラインは肩を揺すった。
「ユフィさん、朝ですよ。朝食冷めますよ」
「んー……おう……。今起きるからもうちょい寝せろや……」
「何訳わかんない事言ってるんです。起きなさい」
ほら焔帝も、とラインはぺしぺしと腹を叩いた。いやがるように四肢が動く。
「……っもう、いい加減に起きろ、ユフィアシード!」
しびれを切らしたラインが怒鳴ると、びくりとユフィは反応して、茫然とラインを見上げた。焔帝も目が覚めたらしく、何度か瞬きを繰り返す。
「……。……ルフィスかと思った……」
父に似ているのか、とラインは少し嬉しくなった。が。
「あぁ……びっくりした。もう迎えが来たのかと」
《主上がいなくなったら、我は誰に仕えればよいのだ》
「おぉ、嬉しいこと言ってくれるなぁ、焔」
と、そのやりとりが何故か癪に障ったので、
「……さっさと逝け」
ぼそりと呟く。と間髪入れず反論が来た。
「何だと? ユフィ様がいなくなったら大変だぞ?」
《全くだ、いくらラインといえど主上を侮辱するのは我が許さんぞ》
二対の夕陽色の瞳に見据えられて、さすがのラインも一瞬ひるんだ。
というより、だ。いつの間にこの焔帝は、ここまで暢気になったんだ。
幼い頃、こいつを初めて紹介されたときは、もっとこう、気品漂うというか、少なくともユフィと組んで馬鹿をやるような性格ではなかったように思う。そういえば、焔帝は炎族でも相当高位な魔物ではなかったか。この世に“焔帝”は、こいつしかいないはず。
……飼い主に似るとは本当だ。お気楽なユフィの性格に、だいぶ染められている。
それでも。
「よぉし焔、朝飯だってよ。もう少し寝たいが、起きるか」
抱き上げて目線を合わせながら、ユフィは言った。
《構わんが、我は食物を摂らないぞ》
「知ってるよ。帰ってもいいけど、一緒に来るだろ?」
《無論だ》
―――とても強い信頼関係のようだから。
「……先に行ってますね」
苦笑を交えて、ラインは肩を竦めてみせた。