何故か知らないけど3000字あります……。
ライマコ。今回はマコライじゃなくてライマコだと思う。たぶん(←
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「ラインさんなんて大っっっきらい!!!!」
朝の挨拶を交わす前に大声で叫ばれて、挙句そのまま脱兎のごとく逃げ出されてしまい、ラインは訳が分からず暫くその場に立ち尽くしていた。
「ん、ラインおはよー。遅かったね……ってどうかしたの?」
朝食を終えたらしく、食堂から出てきたフィオナが不思議そうな顔をしたので、ラインは溜息をつきつつ頬を掻いて視線を外した。
「……私何かしましたっけ……」
「は?」
「―――……。アンタここで何してんだ?」
アステリア王城の中庭に据え付けられたベンチで膝を抱えている少女を発見したティアスは、そのまま放置しておくわけにもいかないので声をかけた。
「……ティー君……」
見上げてきた真子斗の目にうっすら涙が浮かんでいるのを見て、ティアスは怯んで思わず一歩さがる。
いつぞや城下で出会った、親と喧嘩して家出してきたという子供そっくりだ。
気を取り直してティアスは姿勢を戻す。
「昼前から一人で何景気悪そうな顔してるんだよ……しかもアウェーだろここ」
「アウェーじゃないよ。ユフィさんもセレナさんもティー君もいる」
ティー君っていうな。とつっこむのも面倒になって、ティアスはひとつ息をついた。
「ユフィさんもセレナさんもティアスさんもいるのに、じゃあなんで一人で泣いてるんだよ」
「……うー……」
今度は膝に額を押し付けるようにして顔を隠してしまった。
マジで母さん呼んでこないと……と舌打ちしたティアスを真子斗が呼んだ。
「なんだよ」
「……嘘をつくのって心が痛いね……」
「…………オレに伝えたいなら、オレにわかるように喋ってくれ……」
就寝が遅かったから起床も遅く、食堂に辿りつく前つまりフィオナに声をかけられたのとほぼ同時に、伝令から緊急の対処事案を持ち込まれ午前中いっぱい追われてしまい、結果的にフィオナと一緒に昼食に落ち着いた。今ここである。
「マコに大嫌い宣言された?」
サラダにオリーブオイルをかけながらオウム返しにしてくる姉に、ラインはただ頷くしかない。
「なんかしちゃったの?」
「いや……心当たりが全然なくて」
「でもマコがラインのこと嫌いになるとか相当よねー……」
何を根拠にどういう意図でその一言が発されたのかよくわからない。
ラインは黙ってパンにマーマレードを塗りつける作業を続けた。瓶を置くと、すぐさまそれをフィオナが取って、パン皿の隅にたっぷりと取り置く。ジャムの好みは同じでも、ラインはそのまま齧るのが、フィオナはちぎってから塗るのが好きという点で異なっている。
「……うーん、朝マコと一緒に食べたけど……様子おかしい感じはなかったしなぁ。どうしたのかしら」
「マコトさんは部屋にいるんですかね?」
「なんか、今留守してるみたいよ。城下か……ユフィさんのとこかな」
……そうか。
どちらにせよ、午後からは謁見の予定があるので身動きが取れない。
ラインの心を読んだように、フィオナが苦笑した。
「私が探しにいきながらちょっと理由探っといてあげるから。そんな泣きそうな顔しないの」
「……泣きそうですか?」
「泣きそう。寝る時も一緒なくらい可愛がってる犬がしばらく家出してたときのソマリ君の顔そっくり」
「…………えー……」
城下の少年の顔を思い出して、ラインは思わず苦笑した。
「……で……どうしたんだよマコちゃん」
今日はまるで別人かと思うくらいに意気消沈している。
……それでも食後にセレナ手製の菓子を出せば、それもぺろりと平らげてしまうくらいには通常営業だから大丈夫だとは思うが。
「……今日はエイプリルフールだから」
「エイプリルフール?」
知らない単語を問い返すと、真子斗はきょとんとした顔でユフィを見上げた。
「あれ、そっか、エイプリルフール知らないんだ」
この口ぶりからすると、ハロウィンのような行事なのだろう。見当をつけて聞いてみれば、真子斗は頷いた。
「今日は嘘をついてもいい日なの」
「へぇ……で、マコちゃんは嘘をついたのか?」
しゅん、と少女の肩が小さくなった。
まぁ理由はそこだろうと最初から想像がついていたから、驚くべき反応ではない。
「あたし、嘘つくの苦手で……毎年エイプリルフールはみんなに騙されてあたしはまともな嘘がつけないんだけど」
それにユフィは本心から全力で同意し頷いた。
「今年もいろいろ考えて……」
「……考えて?」
「ラインさんに……大っきらいって言って、逃げてきた……」
……………………またどうしてそうなった。
「……ということらしい」
「なんでまたそうなったの」
「フィオナもそう思うよな……」
捜索兼身元引受にきたフィオナにユフィがしみじみと同族意識を醸し出した。
「マコちゃんの思考は時折理解が及ばなくなる」
「まぁその天然さがかわいいところではあるんだけどね……自分で嘘ついて勝手に落ち込んでるとか、なんとも人騒がせな」
ちらりと扉の隙間から部屋の中をのぞく。真子斗は少し復調してきたらしく、セレナと菓子を挟んで談笑している。呑気なものだ。
「ラインは?」
「仕事もあったから目に見えて落ち込んではないけど、すごく心配してるよ。夕食にも真子斗がいなかったらかなりへこみそうな予感。がするので、連れて帰るね。お世話かけました」
「いやいや、こっちは構わないよ」
扉を開けて「マコトー!」と呼べば、いつも通りの笑顔が振り向けられ、
「帰るよ」
言った瞬間に、明らかにそれが曇った。
「……か……帰りにくいです……」
「それは自業自得。ライン怒ってないから。ちゃんと説明してあげなさい」
うー、とものすごく躊躇している様子を見かねて、セレナが苦笑する。
「マコちゃん、ここに泊まっていってもいいけど、そうしたら余計にライン君と顔合わせづらくなるわよ?」
それに真子斗はそうですよねーと同意を見せて、しぶしぶといった様子で立ちあがった。
「ごちそうさまでした、お邪魔しました……ティー君にもよろしく伝えてください」
ぺこりと頭を下げた真子斗に、セレナは手早く残ったクッキーを布巾で包んで手渡した。
「ライン君と食べて」
「ありがとうセレナさん……!」
ほらいくよ、と頭をなでて腕をひくフィオナにも、セレナはお土産を持たせてくれた。
執務室をノックしようとしたフィオナの手が真子斗によって阻止される。
「ちょ、心の準備が……!」
「今更何言ってるの。ラインー」
机でペンを走らせていたラインは、フィオナと、その後ろの真子斗の姿を見るなりがたんと立ち上がる。
「エイプリルフールとかいって、嘘をついてもいい日だったんだって」
フィオナの一言で全てを察したらしく、俯いたままの真子斗に寄って行ったラインは、嘘でしたか、と確認するような口調で呟いた。
「……嘘でした」
「それならよかった。あなたに嫌われたかと思って驚き―――」
「ラインさん!!」
遮るように抱きつかれて、ラインはそのまま黙りこむ。
「ごめんなさいラインさん、大好きです、あたしのこときらいにならないでね……!」
「そ―――」
「どうかしらねぇー?」
にやにやと意地の悪い笑みを浮かべるフィオナを、真子斗が首だけ振り返ってきっと睨む。
「あのねーライン、この子自分でまいた種なのに、嘘ついたこと一日中引きずってユフィさんとセレナさんとティアス君に迷惑かけ―――」
「うるさいなぁ、それについては謝ったでしょ!」
「……一日中反省してたんですか?」
フィオナが言わんとするところを汲み取ったラインは、思わずくすくすと笑いをこぼした。
「わっ……笑わなくても、いいでしょ……」
「ふふ、あなたは本当に可愛らしいですね」
胸に顔を埋めるように抱きついたままの真子斗の髪を、ラインはくしゃりと撫でる。
「嫌いになれるわけないでしょう?」